先日、伊勢を散策してきました。海辺に並ぶ夫婦岩は、何度見ても不思議な安心感を与えてくれます。大小2つの岩を結ぶ注連縄は、まるで「つながり」を表現する一本の線。自然の造形に人の手が加わることで、新しい意味が宿り、景色そのものが一つのデザイン作品のように感じられました。
夫婦岩の背景にある神話では、天岩戸に隠れた天照大神を外に導き出したのが、舞い踊ったアメノウズメ命。彼女の表現力とユーモア、そして人々を巻き込む力が世界を再び光で満たしたと言われています。この神話を思い出すたびに、デザインの役割も似ていると感じます。光を失い閉ざされた状況に対して、人の心を動かす「きっかけ」をつくること。それが舞であり、そして現代の私にとってはデザイン。
天岩戸の物語は、視点を変える大切さも教えてくれます。暗闇の中で扉を開くには、力ずくではなく「楽しさ」や「美しさ」で心を動かすことが必要。これは日々の制作でも同じで、伝えたい思いをどうすれば見る人が自然に受け取れるかを考えながら形にしていく。そのプロセスがまさに神話の再現のように思えるのです。
伊勢散策は観光以上に、自分の仕事と重なる学びを与えてくれました。自然や神話に宿るデザインのヒントをこれからも大切に、日常の制作に取り入れていきたいと思います。