伊勢といえばやはり内宮・外宮へのお参りです。先日改めて両宮を訪れたのですが、デザイナーとしての自分にとっても大きな気づきの時間になりました。
外宮から内宮へと順を追って参拝する流れは、いわばストーリーを体験するようなもの。外宮では衣食住、つまり人が生きていく上で欠かせない“基盤”を祈ります。その後に内宮で太陽の神・天照大神へ感謝を伝える。この順序は、デザインにおいても同じだと感じます。基盤を整えたうえで初めて表現が輝く。土台のないところに鮮やかな色や形を重ねても、見る人の心には届きにくい。外宮と内宮の参拝の流れは、まさに「デザインは生活の延長にある」ということを教えてくれているようでした。
参道を歩いていると、建築や配置の一つひとつに理由があることに気づきます。鳥居をくぐるたびに空気が変わり、緊張感と安らぎが同時に訪れる。その「空気をデザインする力」に圧倒されました。情報やモノがあふれる時代だからこそ、私たちデザイナーが意識すべきは「形そのもの」だけではなく、そこに生まれる“体験”なのかもしれません。
また、内宮の正宮は白木のまま。色彩や装飾を極力排したその佇まいは、余白の力を強く感じさせます。シンプルであるがゆえに本質が際立つ――これもデザインの大切な原則です。私自身、つい要素を足してしまいがちですが、本当に必要なものを見極め、そぎ落とす勇気を持つことが大切だと改めて思いました。
お参りを終えて帰路につく頃には、不思議と心が整っていました。信仰の場で感じたことをそのままデザインに持ち込むわけではありませんが、「基盤」「体験」「余白」というキーワードは、きっとこれからの制作に生きてくると思います。伊勢参りは、私にとって信仰とデザインを結び直す大切な時間でした。