「お願いだから無料でやって」
たまに、そんなふうに頼まれることがあります。たぶん“デザイン=おしゃれな趣味”の延長だと思われているのかもしれません。でも私は、無償で仕事を受ける時は「自分が納得できた時だけ」と決めています。
たとえば、こども食堂や福祉施設のチラシづくり。そういった活動は、地域のため、社会のためという気持ちで動いている方々ばかり。だから私も「何か力になれたら」と心から思える。ボランティアというよりは、“仲間として関わりたい”という感覚です。
でも、それとは別に「ビジネスとして成立させたい」という想いもあります。私はデザイナーである前に、生活をしている一人の人間。時間をかけ、技術を磨き、クライアントの思いを形にするというプロの仕事に、ちゃんと価値を感じてもらいたい。
実際、たくさんのデザイン事務所が経営難でなくなっていくのを見てきました。フリーランスでも、精神的に追い詰められている人を何人も見てきました。デザイン業は、特に不安定で、きちんと収入が安定しないとどうしても生活が厳しくなる。だからこそ、プロとしての仕事には責任が伴いますし、報酬にも納得感が必要だと思っています。
支援活動には喜んで関わるけれど、それは「気持ち」で動いているからで、誰にでもどこにでも無償で動けるわけじゃない。ましてや、ビジネスとして利益を生み出すためのものを、無料で作るのは違うと思っています。
境界線は、線引きが難しい。でも、「納得して引き受けたかどうか」が私にとっての判断基準。プロとしての責任と、地域に寄り添う気持ち。その両方を大切にしたい。