デザインをしていると、よく耳にするのが「黄金比」。美しいバランスを生み出す数式で、ロゴやレイアウト、建築物にまで応用されてきた歴史があります。私も気にはしていますし、無意識のうちに参考にしていることも多いです。ただ、だからといって「これは黄金比だから間違いないんです!」とクライアントに強く伝えたところで、納得してもらえるかどうかは別の話です。
実際の現場では「相手がどう受け取るか」が一番大切です。私は気が弱いところもあって、つい「うん、そうですよね」と相手の意見を受け入れてしまうタイプ。デザイナーとしての自分のこだわりを押し通すよりも、「どうすれば相手が納得してくれるか」「どうすればお互い気持ちよく進められるか」を優先してしまうのです。そんなとき、強い信念をもって「俺はこれが良いんだ!」と貫き通すアーティストの方々を見ると、正直ちょっと羨ましくなります。
でも、デザインの仕事ってアートとは少し違うと思うんです。アーティストは自分の内側から出てくる表現を大切にするけれど、デザイナーはクライアントや受け手との間に立って調整する役割。だからこそ「みんな仲良くしようよ」というスタンスで、お互いがウィンウィンになれるようにすることが大事なんじゃないかなと感じています。
黄金比は美しい。でもそれ以上に「人との関係の比率」こそ、デザインを成り立たせる黄金比なのかもしれません。ちょっとした気遣いと歩み寄りが、最終的に心地よいデザインにつながる。私はそんなふうに、今日もクライアントと一緒に形を作っています。